ハーブとスパイス
ハーブとスパイスはどちらも似ている言葉ですが、どのような違いがあるのでしょうか。
スパイスは、日本では香辛料と訳され、主に植物の果実・花・葉・根などを乾燥して作られる調味料で、主に料理の分野において芳香や風味そして防腐効果を得るために、古くから珍重されてきました。一方で、ハーブは薬草や香草、香料植物と訳され、香りのほかに、健康の維持増進に有用な効果のある成分を含む植物と認識されています。ハーブの中には香りのよくないものや食べられないものも存在します。実際のところ、「スパイス」と「ハーブ」に、それぞれ明確な定義がある訳ではなく、植物学的に明確に分類するのは難しいのです。スパイスにおいても「医食同源」という言葉があるように、体調に合わせて調合することで健康維持に役立つ程その効能は高く、漢方薬としても使われることもあるのです。
言えることは、ハーブとスパイスは、どちらも体にプラスの成分が豊富で健康への効果が期待できるということです。コショウ、ナツメグ、クロープ、シナモン、タイム……これらはスパイスでありハーブでもあります。また日本でお馴染みのワサビ、ミョウガ、サンショウなどはスパイスでありハーブでもあるといえるのです。
スパイスは独自の香りをもつ
スパイスは英語でSpice、日本語に訳せば「香辛料」と言われ、正確に定義すると、「飲食物の風味づけをするために闘材料として用いる考香性植物の一部で、時好的な香り、辛味、色を持っているものの総称」ということになります。平易に言えば、少し加えるだけで料理をおいしく変身させ、さらには体を健康にしてくれるハープと考えることができます。
世界で使われているスパイスの種類は350種類から500種類くらいあると言われている。現在日本ではそのうち約100種類が使われており、さらにカレー粉に使用しているスパイスが330種類から40種類ある。
スパイスには、芳香性、刺激性、爽快性などの賦香作用、辛味性、苦味性、甘味性の呈味作用、赤色、黄色の着色作用、臭・脱臭作用、抗酸化作用、抗菌作用、抗カビ作用、薬理作用、触感の改良作用、栄養作用などの有効成分が含まれているが、これらの作用をより一層高めるには使い方が大切である。熱を加えると、独特の香りがなくなるスパイスもあるし、その逆に熱を加えると香ばしくなるスパイスもある。
主なスパイスと作用
オールスパイス
オールスパイスは、フトモモ科の植物で、果実または葉が香辛料として用いられます。何にでも合う万能スパイスで、食欲増進効果や、防腐・抗菌作用に優れています。また、オールスパイスは、生か加熱調理後かにかかわらずα-アミラーゼおよびα-グルコシダーゼに顕著な阻害作用を示し、糖尿病予防に利用できる可能性が示唆されています。
カルダモン
カルダモンは、ショウガ科の複数の植物の種子から作られる香辛料です。香りの王様と呼ばれるほどすがすがしい香りを持つスパイスで、芳香性健胃効果があり、消化を助けてくれます。また、カルダモンの摂取にストレス改善効果が認められることが報告されています。油分を除く効果もあるので、食後の口直しとして香りのデザートにも適しています。
クミン
クミンはセリ科の草本で整腸、解毒作用が期待されます。種子(クミン・シード)には強い芳香とほろ苦み、辛みがあり、カレー特有の香りを持ち、エスニック料理には欠かせない。消化液の分泌を活発化するので整腸や解毒作用に効果があり、食欲増進や消化の促進につながります。また、抗酸化作用があり免疫力を上げる効果もあります。
クローブ
クローブは、生薬「丁子(チョウジ)」とも呼ばれ、体の内部の冷えからくる不調に対する処方に使われます。腸にたまったガスを排出しやすくする効果もあり、腸内環境を整えるには重要なスパイスです。また、クローブに含まれる精油成分には抗酸化作用があり、酸化や老化防止にも役立ちます。
コリアンダー
食欲増進、血液浄化 コリアンダーはタイではパクチー、中国ではシャンツァイとも呼ばれ、世界各国で利用されているスパイスです。コリアンダーには胃液の分泌を良くし、腸内ガスを排出する作用、口やのど粘膜を刺激して気道の粘液の分泌を良くして痰を切る作用があると言われ、頭痛の軽減や消化不良の改善に役立つとされています。また、発熱の緩和や食欲増進、血液の浄化などの効果も期待され、西洋では消化器系の家庭薬として使われています。なお、コリアンダーの葉は独特の青臭さがあり、好き嫌いが分かれますが、完熟した実はクセのない誰もが好むさわやかな甘い香りです。
シナモン
シナモンは香り高く、『スパイスの王様』と呼ばれています。シナモンティーとしてもよく飲まれていますが、もともとは生薬や漢方として使われていました。体を温める効果が大きく、血液循環が良くなることで美肌効果や、冷え性・むくみなどの防止にも役立ちます。また抗酸化作用やアンチエイジングとしても利用されています。 特徴的な香りが人気で、お菓子などにも使用されます。シナモンは毛細血管の傷を修復してくれる効果もあるので代謝が高くなり、美肌の効果も期待できます。
スターアニス
スターアニスは『八角』などとよばれ、果実を乾燥させたものは香辛料となります。血行促進や、利尿作用、消化活動を活発にする作用があります。また、気持ちを落ち着かせる鎮静効果も期待されています。
ターメリック
ターメリックは「ウコン」とも呼ばれ、カレーの着色材料としてよく使われます。「クルクミン」という成分が肝機能を活性化させるので、二日酔いやコレストロール値の低下が期待されます。また、抗酸化作用にも優れているので、美肌効果も期待されます。また、たんぱく質やアミロイドβの蓄積を防ぐことで脳機能を活性化するので、アルツハイマー病の予防にも効果があるといわれています。ドイツで消化不良の有効性が承認されています。
フェンネル
フェンネルは、セリ科ウイキョウ属に分類される、多年生の草本植物で、「ウイキョウ」とも呼ばれ、甘い香りと樟脳のような風味が特徴的です。むくみ解消のデトックス効果が期待されています。また、健胃、消化促進、抗酸化、腸内ガスの排出、抗膨満、去痰などの薬効が有るとされます。フェンネルに豊富に含まれるカリウムが塩分の排出を促進し、むくみの原因となる塩分や水分を排出するのと同時に不要な老廃物をデトックスしてくれる効果があるからです。また、フェンネルには新陳代謝を促す効果もあり、肥満防止にも役立ちます。フェンネルの芳香は女性ホルモンであるエストロゲンと同じ働きをするフィトエストロゲン(植物性エストロゲン)が豊富に含まれていることから、女性の更年期障害のほてり(ホットフラッシュ)や不眠、不安の症状の改善に効果が出ると判明しています。
ブラックペッパー
ブラックペッパーは肉や魚料理で最もよく利用されているスパイスのひとつです。ブラックペッパーには、カリウム、カルシウム、マグネシウム、鉄分、マンガンなどのミネラルと、ビタミンB1、B2などの栄養価が高く、またピペリンという有効成分を含んでいます。ピペリンには、栄養を身体の隅々にまで運ぶ血液の働きを活性化させる効能があり、血行促進による冷え性改善が期待できます。なお、コショウは、どの色のコショウを使っても同様の効果が期待できます。
ヘンプ
ヘンプは麻科の植物です。生育が速く生命力のある一年草で、約90日で収穫することができ、約3~4mの高さまで成長します。古代から3000年近くにわたり、人類の暮らしに根付いてきた農作物です。CBDは、麻に含まれる、有効成分で、アメリカで2018年に医薬品に承認、欧州では2019年に承認されており、今、注目されている成分です。ヘンプの種は麻の実と呼ばれ、栄養バランスが良好で栄養価が高いことから注目を集めています。良質なタンパク質やミネラルを豊富に含んでいます。また、種から抽出したヘンプオイルは美容への効果も期待されています。
ポピー
ポピーはケシの実のことです。ポピーに含まれているβカロチンには抗酸化作用があり、アンチエイジングへの効果も期待されています。ケシの実にはオレイン酸が豊富に含まれています。オレイン酸は善玉コレステロールを増やし悪玉コレステロールを減らす効能があります。ビタミンB1・B2・B6・ナイアシン・葉酸・パントテン酸・ビオチンなどのビタミンB群が豊富に含まれています。ビタミンB群は生命活動のエネルギー源となる糖質・脂質・たんぱく質の代謝を助ける重要な栄養素です。また、ケシの実に微量に含まれるアルカロイドにより、神経を落ち着かせる効能が期待できます。
レッドペッパー
レッドペッパーは含有される成分にカプサイシンやカプサンチンなどがあります。カプサイシンは脂質代謝を促すことで知られています。レッドペッパーは唐辛子の種を原料とし、刺激的な辛味が特徴です。また、唐辛子はビタミンAやビタミンCなどのビタミン類を豊富に含むので、活性化酸素の増加を抑える働きや抗酸化作用があります。加えて、カプサイシンは皮脂の分泌を調整する働きがあるので、肌をキレイにする効果も期待できます。
主なスパイス、ハーブの生産国
ハーブとスパイスは世界中で生産されています。ヨーロッパ、特に地中海沿岸の国々にはハーブ類、アジアにはスパイス類が多い傾向があります。
【フランス】オレガノ、サボリー、ジュニパーベリー、セロリ、タイム、タラゴン、バジル、パセリ、ペパーミント、マジョラム、ラベンダー、ローズマリー、ローレル
【オランダ】キャラウェイ、タラゴン、ディルシード、バジル、マスタード
【イタリア】オレガノ、タラゴン、パセリ、マスタード、ローズマリー
【ギリシャ】オレガノ、セージ、タイム、バジル、マジョラム、ローレル
【ポーランド】マスタード、ミント、メリッサ(レモンバーム)
【ウクライナ】クミン、コリアンダー
【ハンガリー】バジル、パセリ、マジョラム
【旧ユーゴスラビア】セージ、フェンネル、ローレル
【ルーマニア】オニオン、コリアンダー、フェンネル、マジョラム、ミント
【ブルガリア】オニオン、オレガノ、ペパーミント
【アルバニア】オレガノ、サボリー、セージ
【モロッコ】オレガノ、コリアンダー、サフラン、サボリー、タイム、バニラ、バブリカ、フェネグリーク、ラベンダー、ローズマリー、ローレル
【イラン】クミン、けしの実、コリアンダー、サフラン、スターアニス、バジル、ミント、メリッサ(レモンバーム)
【アフガニスタン】リコリス(カンゾウ)
【シリア】クミン
【フランス領レユニオン島】ピンクペッパー
【タンザニア】クローブ
【ザンジバル】クロープ
【マダガスカル】クローブ、バニラ
【インドネシア】クロープ、コショウ、シナモン、ジンジャー、ナツメグ、メース
【パキスタン】リコリス(カンゾウ)、けしの実、ゴマ、唐辛子
【スリランカ】カルダモン、クロープ、コショウ、シナモン、ナツメグ、メース
【ミャンマー】ゴマ
【マレーシア】クローブ、コショウ
【タイ】コショウ、ジンジャー、レモングラス
【ベトナム】コショウ、ゴマ、シナモン、スターアニス
【韓国】サンショウ、唐辛子
【台湾】クチナシの実、ジンジャー、ターメリック、ホースラディッシュ、ワサビ
【日本】クチナシの実、沢ワサビ、サンショウ、シソ、マンダリン
【中華人民共和国】麻の実、ガーリック、クチナシの実、カシア(ケイヒ)、コショウ、ゴマ、コリアンダー、サフラン、ジンジャー、スターアニス、ターメリック、唐辛子、花椒、フェンネル、ホースラディッシュ、マスタード、マンダリン、リコリス(カンゾウ)
【オーストラリア】オニオン、コリアンダー、マスタード
【ニュージーランド】オニオン
【アメリカ合衆国】オニオン、オレガノ、ガーリック、サボリー、タイム、タラゴン、チャービル、パセリ、ペパーミント、ホースラディッシュ、マジョラム、ラベンダー、ローズマリー、ローレル
【メキシコ】オールスパイス、唐辛子、マジョラム、レモングラス
【ジャマイカ】オールスパイス
【グレナダ】ナツメグ、メース
【グアテマラ】カルダモン
【コロンビア】カルダモン
【ブラジル】コショウ
【チリ】オレガノ、バニラ、パプリカ、ローズヒップ
まとめ
スパイスは料理の味をアップさせるだけでなく、美容や健康に対してもさまざまな効能と効果をもっています。毎日の食生活の中で、少しずつ取り入れることで簡単に健康効果を上げることができます。今回ご紹介したもの以外にもいろいろなスパイスがあるので、自分に合ったスパイスを見つけて、健康維持にお役立てください。